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Written By:
遠野秋彦 |
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ある夜、オレは人助けをした。 道に迷った赤い服の太った男を助けたのだ。 「夜明けが来る前に届けないとならないのに、場所が分からないよ。杉並区下高井戸ってどこ!」 オレは親切に教えた。 「杉並区上高井戸から先に進むと世田谷区上北沢に入るけど、甲州街道をまっすぐ行けばまた杉並区に入って下高井戸だから」 「おお。ありがとう。お礼に無料の三択ロース券を4枚あげよう」 「サンタクロース?」 「ノンノン。三択ロース。三択問題を出して正解したらロース焼き肉サービスという赤い服の太ったオヤジのことよ。みんなが寝静まった夜、その券を星空のかざせば、三択ロースが現れるのね!」 「はあ」 「では、さらば!」 三択ロースは行ってしまった。 渡された券をよく見ると、1枚の裏にもう1枚張り付いていて、合計5枚もらっていた。 オレは翌日の夜にその券を空にかざしてみた。 空からトナカイっぽい動物4匹に引かせたソリで三択ロースはやってきた。 「メリークイズトマス! ではさっそく三択問題行くよ! 三択ロースっぽいのは次のうちどれ!? 東京ローズ、江戸川アンダーグラウンド、六本木ヒルズ。さあ、あなたの答は!?」 まるで意味不明のクイズだった。似ていると言えば、東京ローズが似ているように見えるが何か引っかけかも知れない。しかし、他に何も思いつかなかったので、オレはそれを答えた。 「東京ローズ……か?」 「正解! さあロース焼き肉を召し上がれ!」 オレは焼き肉をご馳走になって満腹した。 そしてふと窓の外を見ると、ソリが帰っているところだったが、引いているトナカイっぽい動物の数が3匹に減っていた。 それから数日後、また焼き肉が食べたくなったので、2枚目の券を使った。 空からトナカイっぽい動物3匹に引かせたソリで三択ロースはやってきた。 「メリークイズトマス! ではさっそく三択問題行くよ! 三択ロースっぽいのは次のうちどれ!? ローズティー、レモンティー、ハーブティー。さあ、あなたの答は!?」 「ローズティー……か?」 「正解! さあロース焼き肉を召し上がれ!」 オレは焼き肉をご馳走になって満腹した。 そしてふと窓の外を見ると、ソリが帰っているところだったが、引いているトナカイっぽい動物の数が2匹に減っていた。 まさか、あのトナカイっぽい動物をその場で肉にして出しているのではあるまいな、と思った。 ちょっとトナカイっぽい動物が哀れに思えたが、焼き肉の誘惑は大きかった。それから数日後、3枚目の券を使った。 空からトナカイっぽい動物2匹に引かせたソリで三択ロースはやってきた。 「メリークイズトマス! ではさっそく三択問題行くよ! 三択ロースっぽいのは次のうちどれ!? ズロース、パンティ、スキャンティ。さあ、あなたの答は!?」 「ズロース……か?」 「正解! さあロース焼き肉を召し上がれ!」 オレは焼き肉をご馳走になって満腹した。 そしてふと窓の外を見ると、ソリが帰っているところだったが、引いているトナカイっぽい動物の数が1匹に減っていた。 さすがに、オレはトナカイっぽい動物が哀れになり、もう2度と三択ロースは呼ばないことにした。 だが、突然襲ってきた不況でオレは失職し、食事の金も無くなった。飢えたオレは、やむなく4枚目の券を使った。 空からトナカイっぽい動物1匹に引かせたソリで三択ロースはやってきた。 「メリークイズトマス! ではさっそく三択問題行くよ! 三択ロースっぽいのは次のうちどれ!? ロースクール、ハイスクール、RPGツクール。さあ、あなたの答は!?」 「ロースクール……か?」 「正解! さあロース焼き肉を召し上がれ!」 オレは焼き肉をご馳走になって満腹した。 そしてふと窓の外を見ると、ソリが帰っていくところだったが、引いているトナカイっぽい動物は既におらず、三択ロース自身がソリを引いていた。 さて、とオレは考えた。 まだオレの手元には券が1枚残っている。三択ロースは4枚渡したつもりだが、実際には5枚渡していたからだ。 この5枚目は有効だろうか。 そして、有効だとして肉は食べられるのだろうか。 それを確かめてはいけないような気がした。 だが、飢えが高まるとそうも言っていられなくなった。 オレは5枚目の券を使った。 空から、空飛ぶ赤いオープンカーに乗った三択ロースはやってきた。ソリではなかった。 まさか、この車を料理して出すつもりか? だが、オレはいくら何でもそれはあり得ないと考え直した。車にロース肉は付いていない。 「メリークイズトマス! ではさっそく三択問題行くよ! 三択ロースっぽいのは次のうちどれ!? ローズマリーの赤ちゃん、こんにちは赤ちゃん、ごめんよ母ちゃん。さあ、あなたの答は!?」 「ローズマリーの赤ちゃん……か?」 「正解! さあロース焼き肉を召し上がれ!」 オレは焼き肉をご馳走になって満腹した。 そしてふと窓の外を見ると、三択ロースが空飛ぶ青いオープンカーで帰るところだった。ああ、そうか。やはり誤解か。トナカイっぽい動物や車を料理して出すはずがない。出された肉は、やはり肉屋で買ったものに違いない。 次の瞬間、オレはハッと気付いた。 あれ、三択ロースは赤いオープンカーで来たはずではなかったか? しかし、帰りは青いオープンカーだった。ならば赤いオープンカーはどこに消えたのだ? オレの口から、赤いげっぷが漏れた。 (遠野秋彦・作 ©2009 TOHNO, Akihiko) |
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